おばあさん:はあ、あの子が出ていってから、もう三年にもなります。定職にも就かず、往来をぶらぶらしたり、部屋でごろごろばかりしておったあの子が、何を思い立ったか、急に体を鍛えはじめ、忘れもしません、ある日ぶらりと出掛けて行ったと思ったら、大きな牛の生首をぶらさげて帰って来て、お母様、時は来ましたよ、明日、僕は鬼退治に出掛けますので、きびだんごをこさえてください、ちなみに鬼はたくさん宝を持ってるそうなので、お母様にも楽をさせてあげれます、等と言い出し、村の皆が止めるのも聞かずに、私が仕方なくこさえたきびだんごを携えて、あくるひの朝、ほんとうに出ていってしまって、それきり。はあ、昔から夢見がちな子で、突拍子もないことばかり言って、将来が心配でしたが、まさかこんなことになるなんて、しくしく、いい加減に就職しなさい、とかうるさく言ったのが悪かったかしら、ああ、帰っておいで、桃太郎や、しくしく。
おじいさん:ああ、桃太郎や、桃から生まれた桃太郎、わしは山へ芝刈りに、ばあさんが川で洗濯をしていたら、どんぶらこと流れてきた桃、家で割ってみたら、あのこが生まれたんじゃ、たまげたのう、あの時は、しくしく。
おまき:おじいさま、おばあさま、また桃太郎兄さまのことを思い出して、泣いておられるのですね、元気をおだしになって下さい、兄さまはきっと帰って来られるに違いありません、皆は兄さまの事を阿呆だとかニートだとか、道化野郎だとか夢想家だとか言いましたけど、わたしはそうは思いません、兄さまは、ほんとうはすごいお方です、確かに勉強も運動も人並み以下ですけども、いつか何かたいそうなことをしでかすような気がするのです。それに優しくて、ひょうきんです、身寄りのないわたしをほんとうの妹のように可愛がってくださりました。わたしは何度、にいさまのひょうきんに励まされたことか。それにあれで兄さまはやる時はやるお方なのです。昔、がき大将の平助に飼っていたどじょうを天ぷらにされた時、平助の子分たちを次々と罠に陥れ、最後に平助をタイマンでぼこぼこにしました。あの時のにいさまは恰好良かった、どじょうの墓の前で、仇はとった、と報告しているにいさまに、思わず、わたしは大きくなったらにいさまのお嫁になる、と言ったら、あー、うん、いいよ、とあっさりおっしゃってくださいました。
きっと今にお宝をどっさり持って帰ってきます。
その時、かわいそうな三人の前に、けたたましい羽音とともに、空から巨大な怪鳥が舞い降りました。全長五メートルほどあります。よく見ると、雉のようです。
三人が腰を抜かして、あわあわしていると、雉の上に人影があります。
「今帰りました!」
それは紛れも無く、桃太郎でした。足元にダックスフント、肩にリスザルを乗せています。ダックスフント、リスザル、巨大な雉の三畜生は、ともに鬼を成敗した、殊勲なるしもべたちです。
桃太郎はおまきを嫁にとり、鬼ヶ島から奪取してきたお宝で豪邸を建て、おじいさんばあさんと四人で幸せに暮らしました。三畜生は普通のペットになりました。これにて大団円。めでたしめでたし!
終り
おじいさん:ああ、桃太郎や、桃から生まれた桃太郎、わしは山へ芝刈りに、ばあさんが川で洗濯をしていたら、どんぶらこと流れてきた桃、家で割ってみたら、あのこが生まれたんじゃ、たまげたのう、あの時は、しくしく。
おまき:おじいさま、おばあさま、また桃太郎兄さまのことを思い出して、泣いておられるのですね、元気をおだしになって下さい、兄さまはきっと帰って来られるに違いありません、皆は兄さまの事を阿呆だとかニートだとか、道化野郎だとか夢想家だとか言いましたけど、わたしはそうは思いません、兄さまは、ほんとうはすごいお方です、確かに勉強も運動も人並み以下ですけども、いつか何かたいそうなことをしでかすような気がするのです。それに優しくて、ひょうきんです、身寄りのないわたしをほんとうの妹のように可愛がってくださりました。わたしは何度、にいさまのひょうきんに励まされたことか。それにあれで兄さまはやる時はやるお方なのです。昔、がき大将の平助に飼っていたどじょうを天ぷらにされた時、平助の子分たちを次々と罠に陥れ、最後に平助をタイマンでぼこぼこにしました。あの時のにいさまは恰好良かった、どじょうの墓の前で、仇はとった、と報告しているにいさまに、思わず、わたしは大きくなったらにいさまのお嫁になる、と言ったら、あー、うん、いいよ、とあっさりおっしゃってくださいました。
きっと今にお宝をどっさり持って帰ってきます。
その時、かわいそうな三人の前に、けたたましい羽音とともに、空から巨大な怪鳥が舞い降りました。全長五メートルほどあります。よく見ると、雉のようです。
三人が腰を抜かして、あわあわしていると、雉の上に人影があります。
「今帰りました!」
それは紛れも無く、桃太郎でした。足元にダックスフント、肩にリスザルを乗せています。ダックスフント、リスザル、巨大な雉の三畜生は、ともに鬼を成敗した、殊勲なるしもべたちです。
桃太郎はおまきを嫁にとり、鬼ヶ島から奪取してきたお宝で豪邸を建て、おじいさんばあさんと四人で幸せに暮らしました。三畜生は普通のペットになりました。これにて大団円。めでたしめでたし!
終り
桃太郎は学校を出た後、定職にも就かず、ふらふらとしておりましたが、ある日、新聞の折込チラシに入っていた「鬼退治してくれる猛者募集中!」という広告を見て、鬼退治の旅へ出掛けることにしました。しかし、鬼はとても強くておっかないと聞きます、なので、暫くはひたすら鍛練に励みました。ボクシングジムでパンチを磨き、柔道の道場で寝技を習得、体作りのためプロテインをたくさん飲み筋トレ、ひたすらに修業の日々。光陰矢のごとし、月日は流れ、一年が過ぎる頃には、桃太郎の体重は90キロを越え、筋骨隆々な見事な躯を手に入れて、格闘技の腕前も相当なものとなりました。そろそろ頃合いかと思った桃太郎は、仕上げとして近所に住む三平爺さまが飼っている巨大暴れ牛「テキサス」との査定マッチに挑み、僅か30秒足らずでテキサスを撲殺。大騒ぎする爺さまを尻目に、八つ裂きにしたテキサスを丸焼きにして肉にかぶりつきながら、よし、心身ともに充実、時は来た、今の俺ならどんな鬼にも負けない。と、いよいよ鬼ヶ島にカチ込む決意を固めたのです。 続く
二週間ほど前から失くしていたapartmentの鍵が、漸く見つかった。一体どこで見付けたかと言うと、桶の底である。はて、桶?桶とはなんぞや、と読者諸兄は訝しがるだろうから、説明致そう。少々長くなるが、どうか御静聴願いたい。一昨年、夏の或る日である、私は予てより思い描いていた、或作戦を実行に移した。当時無職であった私は、平日の昼間から−−雲ひとつなく、白々しいくらいに、よく晴れた、茹だるように暑い真夏日だった−−隣町にある大型ホームセンターへと出掛けた。暫くの吟味の後、ビニールホースを二米ばかりと、Plastic製の大型の桶を購買した。それらの大荷物を抱えて、自宅まで歩いて帰るのは、並大抵ではない労力を要したが、とめどなく流れる汗も、この後に待っているであろうkatharsisを想像すれば、心地良くすら思われるのだった。私を待ち受けているのは、katharsisというよりはむしろ、catastropheであるとこも知らずに・・。
続く…
続く…
ああ、今日も良い天気だ、こうして、陽射しを浴びつつ、池をぷかぷかと浮かんでいるのは、実に夢心地であるな。どれ、小腹か減ったのでアメンボウでも食べようかな、ぱく。うん、美味です。あ、亀山だ、あいつはこの頃益々大きく成って来たなあ、昔は俺より小さかったのに。でもまあ、図体ばかりでかくて、なんか間延びしてて、阿呆みたいな顔しているよな、その点俺は、体は小さいけれど、実に品のある顔をしている、きゅっと締まった口もと、小さめの鼻、ばっちりとしたお目目。水面に写る自分の顔を見るたびに惚れ惚れするぜ。ていうか亀山、よく見ると甲羅に水草が引っ掛かってるぞ。あいつ全然気付いてやがらねえ。池のほとりの木に止まる小鳥たちも、あいつを眺めて、ちゅんちゅらちゅらりと笑ってるよ。間抜けたやつたなあ。仕方ない、教えてやるか。おーい、亀山。
ちゅんちゅらちゅらり、どじな亀さん。
ちゅんちゅらちゅらり、おほほ。
ちゅんちゅらちゅらり、間抜けでございます。
ちゅんちゅらちゅらり、甲羅の水草。
若者に目を移してみると、おやおや、いつの間にか、すやすやと、寝息をたてていました。
穏やかな寝顔であります。神代の夢でも、見ているのでしょうか。
やがて、少し日も傾きかけた頃です、ふと、池のまわりを、やさしい夕風が吹き抜け、水面に垂れさっがった木の枝から、一枚の青葉を、水面に落としました。そっと波紋を起てた青葉は、いつまでも、ゆらゆらと、水面を漂っていました。ある六月、梅雨の合間の、目の覚めるようによく晴れた一日の、美しい昼下がりのことでした。小鳥の囀り、ちゅんちゅらちゅらり。 終
ちゅんちゅらちゅらり、どじな亀さん。
ちゅんちゅらちゅらり、おほほ。
ちゅんちゅらちゅらり、間抜けでございます。
ちゅんちゅらちゅらり、甲羅の水草。
若者に目を移してみると、おやおや、いつの間にか、すやすやと、寝息をたてていました。
穏やかな寝顔であります。神代の夢でも、見ているのでしょうか。
やがて、少し日も傾きかけた頃です、ふと、池のまわりを、やさしい夕風が吹き抜け、水面に垂れさっがった木の枝から、一枚の青葉を、水面に落としました。そっと波紋を起てた青葉は、いつまでも、ゆらゆらと、水面を漂っていました。ある六月、梅雨の合間の、目の覚めるようによく晴れた一日の、美しい昼下がりのことでした。小鳥の囀り、ちゅんちゅらちゅらり。 終
俺は一見、ただ単にぼんやりとしているかの様に見えるかも知れないけれど、それは違うのだ、その実、色々なことを考えている。例えば、水面を浮かぶ亀さん、あの亀さんは小さいな、大体15センチくらいだろうか、やっぱり小さい。まあ、別に小さいという事自体に問題はない、亀さんの大小は亀さんの勝手である、フリー・タートル。問題は、あの亀さんはまだ子供で、これから大きくなる、成長の途中なのか、それとも、もう既に立派に生体しており、あれ以上大きくはならない、つまり元来小さい種類の亀さんなのか、という事た。もし前者が正解だとしたら、あの亀さんの左側に浮かんでいる、ふたまわりくらい大きな亀さんが、例の亀さんの親御さんなのだろうか、ファミリータートルだろか。 亀さん問題の正解はというと、後者で、件の亀さんはもう既にに、立派な成亀でした、人間でいうと、二十半ばくらい、ちょうど、若者と同じ年頃の、若亀です。名を、亀吉といいました。ちなみに、若者が親御さんではないかと予測した亀さんは亀吉の友達で、亀山といいます。亀吉より大きい体をしていますが、亀吉より年下です。大きい種類の亀さんなのでした。続く